仙台防災枠組と福島の教訓

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  • 2015年4月24日

    モシニャガ・アンナ

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    Theen Moy. Creative Commons BY-NC-SA (cropped)

    2015年3月に仙台で開催された国連防災世界会議(WCDRR)では、原発事故とそれに類するハザードは、主要テーマに含まれていなかった。技術的ハザードに関する問題を対象にした1つのセッションを除けば、4年前に日本と世界に衝撃を与えた福島での原発事故は、本体会議の間、関心をほとんど集めなかった。

    そうした意味では、WCDRRの間、福島原発事故で浮き彫りになった複合的な問題について、より深く考察する機会が失われたことは間違いない。しかし、4日間の集中協議を経て最終的に採択された仙台防災枠組2015-2030は、福島原発事故から得られた教訓を集約できる可能性をいくらか提供している。とはいえ、次に福島の事故に似た状況が発生したときに、この枠組みによって、これまでよりも適切な対応を確保するうえで必要な政治的意思と市民意識が結集されるかどうかは、現時点ではまだわからない。

    仙台防災枠組の前文では、「自然ハザードや人為ハザードのほか、関連する環境・技術的・生物学的ハザードおよびリスク」(p.6)に起因する災害が、この枠組の対象になると述べられている。このように、原発事故は実際の文面で言及されてはいないものの、枠組みの対象には含まれている。実のところ、そのこと自体は進歩である。筆者が2014年5月にインタビューを行った国連国際防災戦略事務所(UNISDR)の職員によると、2015年以降の国際的な防災の取組指針となる防災枠組は、自然ハザードのみに焦点を合わせるべきか、それとも技術的ハザードと生物学的ハザードも対象に含めるべきかという問題は、激しく議論された論点の1つであったという。この時点で、日本政府が原発災害に関する議論をWCDRRの議題に盛り込むことに非常に消極的であったのは、驚くことではない。こうした背景を踏まえて、日本政府が2011年3月の原子力発電所での緊急事態への対応について、WCDRRでその経験を発表したことは、福島の教訓を共有するプロセスにおける待望の第一歩であった。

    仙台防災枠組は、避難を災害がもたらすもっとも深刻な影響の1つと認める重要な一歩でもある(p.4)。その前身である兵庫行動枠組では、避難の問題についてほとんど触れられていなかったが、仙台防災枠組では「被災者と受け入れコミュニティのレジリエンスを強化するために、災害によって引き起こされた人の移動に対応する政策と制度を採用すること」(p.16)が、防災投資がレジリエンス強化に確実に寄与するようにするための重要な措置であると明確に認めている。ヴァルター・ケーリン氏(ナンセン・イニシアティブの議長特使)によると、これにより「災害によって避難を余儀なくされた人々の保護を強化するための重要な基礎」がもたらされることになる。

    災害に伴う避難と移動への言及は、日常を取り戻すことが多くの避難者にとっていまだに遠い目標である福島の教訓を再考するためにも意味がある。福島原発事故によって、「Natech」災害と称される自然災害起因の産業事故に伴う避難の影響が長期化することで、社会的に荒廃をもたらしうることが明らかになっているのである。

    筆者が2014年10月にインタビューを行った国際移住機関の職員は、こうした状況を振り返り、福島原発事故は「生ける見本」として、避難に関連する問題に防災の視点から包括的に対処する重要性を示していると述べている。つまり、予防と備えの問題としてだけでなく、長期的な復興とレジリエンスの問題としても取り組むべきだということである。具体的には、福島や他の産業施設での大規模災害の経験により、復興の最初期段階から、生活再建のための措置、補償の仕組み、移住計画、環境復旧活動が喫緊に必要であることがわかる。

    仙台にて開催された第三回国連防災世界会議における、マルチステークホルダーワーキングセッションでの「農村地域におけるレジリエントな未来の構築」にて、コメントをする参加者。 Photo: UN ISDR. Creative Commons BY-NC-ND 2.0.

    被災者や被災地が今なお直面しているこうした問題や、その他の社会・経済・環境に関する問題が持つ性質については、研究者や実務者、市民社会団体が企画したさまざまなイベントで構成されたWCDRRのパブリック・フォーラムで、活発に議論が行われた。一方、そうした議論は、WCDRRの本体会議では著しく抜け落ちていた。WCDRRでの、災害に伴う移住・移転に焦点をあてたセッションに関するコンセプト・ペーパーでは、自然災害と「自然ハザードに起因する技術的災害によって何百万人もの人々が移動を強いられる」ことを確認した。しかし、当のセッションでの実際の議論では、避難やそこから派生する問題を解決する困難さについて一通り触れただけであった。その意味で、産業事故に起因する複雑な避難状況への対策に関する、困難だが、福島での状況が今なお示し続けているように、必要性の高い議論を再活性化する機会が失われてしまった。

    また、福島第一原発での緊急事態が次々と明らかになる状況で混乱のさなかに行われた避難は、事故のリスクに関して地域住民とのコミュニケーションが失敗した結果を明示している。原発事故の影響を受けた地方自治体も中央政府も、大規模避難に対する備えがなかった。避難経路が実際に使えるのか、利用可能な避難所の収容能力で対応しうるのかについて、こうしたシナリオを念頭に検討したことがなく、避難者の突然の流入から影響を受けうる近隣自治体とは何らの協定も結んでいなかったのである。

    福島のこうした経験などから、災害リスクを評価するプロセスにおいて、住民参加を指針とすべきことがわかる。適切な緊急時対策計画の策定から災害後の復興政策の策定まで、住民のニーズと懸念事項について検討するための定期的な機会を、十分な資源と重要なステークホルダー間の緊密な連携、透明でバランスの取れた協議によって支援しなければならない。

    仙台防災枠組でなされた一部の言及は、きわめて曖昧な表現ではあるものの、それらを利用して、福島の原発事故などの産業事故に対するものを含め、災害リスクをどのように評価し、伝達すべきかという議論を進めることができる。

    情報提供に関して、仙台防災枠組は「2030年までに、マルチハザード(中略)による災害リスク情報とその評価の利用可能性とそれらへのアクセスを、住民にまで大幅に拡大する」(p.8)目標を提唱している。「災害リスクのモニタリング・評価・理解を重視することで、既存の課題に対処し、今後の課題に備える必要性」を指摘すると同時に、「そうした情報ならびに情報のまとめられ方について共有すること」(p.6)を重要視している。

    住民参加に関して、仙台防災枠組は「女性、子ども、若者、障害者、貧困層、移住者、先住民、ボランティア、実務者の組織、高齢者」(p.5)を含めることにより、政府が関連政策の立案と実施に際して関与させるべきステークホルダーの範囲を拡大している。

    分野横断的な点として、仙台防災枠組は「住民とその健康と生活、定期的なフォローアップにいっそう明確な重点を置く」(p.6)必要性も認めており、これによって、リスクの伝達とハザードの管理に対するより人間中心のアプローチを奨励している。

    最終的に、仙台防災枠組のように法的拘束力を持たない合意文章の価値は、それらが生み出す国際的な認知度と政治的な勢いが、災害リスクを予防、軽減するための責任を果たすよう諸政府に圧力をかけるところにある。この点から見れば、仙台防災枠組は、多くの領域で期待に外れていながらも、福島原発事故の教訓を盛り込むためにいくつか重要な前進を見せた。しかし、よく見れば、それらは日本と国際社会が今後の巨大災害とそれによって引き起こされうる複合的な産業事故への対策に、これまで以上に備えるためにたどるべき長い道のりのごく最初の数歩でしかないのである。

    翻訳:日本コンベンションサービス

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