セミナーにおいて、福島原発事故後における効果的なリスクコミュニケーションの複雑さが議題になる

News
  • 2015年11月27日

    2015年11月13日に開催された、福島原発事故後におけるリスク理解とコミュニケーションのあり方と題する国連大学サステイナビリティ高等研究所(UNU-IAS)の公開セミナーにおいて、原発事故に関するリスク理解および効果的なリスクコミュニケーションの難しさについて、さまざまな見識が示されました。日本および各国のパネリストが、異なる学問分野にまたがる専門知識を活用し、福島の事故および過去に発生したその他の事故から得られた教訓を紹介しました。シンポジウムでは、リスクコミュニケーションに関する2日間の集中的なワークショップの結果をふまえ、ワークショップ 参加者25名のうちの5名によるプレゼンテーションを中心に行われました。

    リカ・モリオカ氏(ミャンマー・パートナーズ政策研究所部長補佐)は、日本において、ジェンダーがどの様にリスクの認識方法の違いに関係しているかを説明しました。同氏の質的調査によると、女性の場合は、健康や安全への配慮からリスク認識が形成される一方、男性の場合は、仕事や経済面における安定という観点からリスクを認識する傾向があります。同氏は、男性的な視点が日本の原子力災害への対応に顕著に表れていると説明しました。

    ガストン・メスケンス博士(ベルギー原子力研究センター/ゲント大学、研究員)は、福島原発事故により起こりうる健康影響に関する継続中の科学的議論について触れ、しきい値無し直線仮説(Linear Non-Threshold仮説)や現行規制の一般公衆上限線量1ミリシーベルト/年を事故後のガバナンスを示す参考値として維持することの重要性を強調しました。同博士は、福島第一原子力発電所の事故発生前の日本における原子力発電の使用、また、事故後の原子力発電所の再稼働に関して、国民はその意思決定過程から排除されたと感じていると説明しました。

    ターニャ・ペルコ博士(ベルギー原子力研究センター/アントワープ大学、上級研究員)は、ヨーロッパでの経験を示しつつ、データのテクニカルコミュニケーション(technical communication)が十分ではなかったと説明しました。むしろ、一般市民の参加および広範囲の利害関係者の関与を基礎にした、社会中心のコミュニケーションに重点を置く必要があると強調しました。また同博士は、ヨーロッパが福島の経験から様々なことを学んだとはいえ、コミュニケーションは現地の事情に合わせてすすめるべきだと訴えました。

    宮崎真医師(福島県立医科大学、助手)は、臨床医としての経験に基づき、放射性物質リスクの効果的なコミュニケーションのあり方に、現在不均衡が生じていることを説明しました。同医師は、多くの市民が個人線量計を持ちWhole Body Counter 検査を受けることで各自の個人線量のデータを取得していながらも、自分の生活と結果を結びつける説明がないためデータを解釈出来ない現状があることを指摘しました。同医師は、専門家と放射性物質の影響下にある市民との間に「説明者」を介した密接なコミュニケーションが生じることで、不安への対処および記録されたデータの状況解釈が促進されると強調しました。

    マーティン・クロットマイヤー氏(国際赤十字・赤新月社連盟、上級オフィサー)は、受益者コミュニケーション(beneficiary communication)を通じて影響下にあるコミュニティーとかかわることの重要性を説明しました。これを行うには、人々が不安を声に出し、経験を共有する包括的なプラットフォームを確立すること、またコミュニティーに提供されているサービスの透明性を確保することが必要と述べました。同氏は、許容できるリスクについて正しく考えることができるように、現存の知識の限界を率直に説明するべきだと強調しました。

    シンポジウムでは、締めくくりとして、聴衆メンバーとパネリストとの間でさまざまな懸念、提案および経験に関する対話型討論が行われました。参加者は、リスクコミュニケーションの学際的な性質に焦点を合わせたうえで、今後さらに効率的な対応および政策立案を確実にするため、チェルノブイリ事故などの過去の経験から学ぶこと、また福島から得られた教訓を共有することに対しても高い関心を示しました。

    本公開セミナーおよび研究ワークショップは、2011年3月11日に発生した東日本大震災、津波、および原発事故が人々や社会に与えた影響、福島の復興過程における課題、ならびにこれに関連するリスクや情報提供の問題について検討するUNU-IASの研究イニシアチブ「FUKUSHIMAグローバルコミュニケーション事業」により主催されました。